WFPチャリティー エッセイコンテスト2024

入賞作品発表

審査員特別賞(18歳以上部門)

人生で1番の板チョコ
宮城県
鈴木 友香さん

人が生きていく上で、大量の板チョコを管理する機会はどれぐらいあるだろうか。
私は、東北のとある消防署で働いており、東日本大震災の大津波で住む家を失った被災者の1人でもある。
そのためしばらくの間、消防署に住み込みで仕事をすることになった。
当時、消防署では盗難が相次いだ。食料や物資だけでなく、消防士のヘルメットやライトといった装備まで、盗難の被害にあった。
そんな中、支援物資として届いたのが、冒頭の大量の板チョコである。大きめのダンボール箱に隙間なく詰められた板チョコの扱いに、みんなが困った。放っておいたら盗難の被害に遭ってしまうからだ。そこで部隊の最高責任者が私に下した命令が、『板チョコを女子仮眠室で管理する』ことであった。消防署の女子仮眠室は、常時厳重に施錠されており、その鍵を持っているのは、当時唯一の女性消防士であった私のみ。つまり、私だけが管理を許された、最強の板チョコシェルターとなったのである。
私はその板チョコを、然るべきタイミングで、然るべき人に食べさせる任務を仰せつかった、板チョコの管理者となった。
被災地での救助活動からボロボロになって帰ってきた隊員たちに、「お疲れ様でした」と報酬のごとく板チョコを配り続けた。疲れた体には、甘いものである。
隊員たちは、ヘドロで汚れた顔をくしゃくしゃにして喜んだ。のちに私から板チョコを受け取った隊員から「あの時の板チョコは、人生で1番美味しかった」と感謝された。管理者冥利に尽きる。そんな管理者本人も、活動の合間に他の隊員より多目に食べたのは、ここだけの話である。
人は、極限状態のストレスの中でもお腹が減るし、甘いものを食べれば笑顔になる。
食べ物を与える者、貰う者、盗む者、配る者、当時はこの全員が、誰かの空腹を満たすために必死で行動していた。
私は板チョコ管理者の任務を果たせたことを、誇りに思う。

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  • 【選者のコメント】
    竹下 景子さん(国連WFP協会親善大使 俳優)
    鈴木友香さんは女性消防士、そして東日本大震災で被災されたお一人です。13年が経っても、自然災害が相次ぐ昨今は昨日のことのように思い出されます。生命を削る任務は厳しいものだったでしょう。そして、支援物資で届いた大量の板チョコ。現場ならではのリアルなルポが続きます。隊員さんがチョコに癒される。「疲れた体には、甘いもの」文字がにじみました。結びに友香さんは記しています。「食べ物を与える者、貰う者、盗む者、配る者」あまねく者達への眼差しに私の涙腺は崩壊したのでした。
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