鈴木 恵美さん
東日本大震災。恐怖と寒さで震える中、飲み水が残り少なくなっていく。夫は帰宅できない。ウチには四人の子どもがいて、重度障害の子もいる。ガソリンが手に入らないので、車も易々と走らせられない。
長女(十六歳)と次女(十二歳)は、給水係をするという。二人は空のペットボトルを持ち、自転車で近くの給水所に行った。
余震が続く不気味な夜。ラジオから伝わる被害状況。途上国の子どもたちがする水汲みほど過酷さはないとはいえ、戻らないのだ。しびれを切らし外に出ると、ゆらゆらと明かりが近づいてくる。懐中電灯を向けると、
「お母さん、私、頑張ったよ・・・・・・」
次女が泣き顔で必死に言葉を紡いでいる。
聞けば十五時開設の給水所は超長蛇の列。自分たちまで回ってきそうにないので、他の給水所を聞いて自転車を走らせたそうだ。
そして、帰り道。あまりの重さに次女は自転車ごと派手に転倒。長女は次女の膝の血をタオルで拭い、次女の分のペットボトルを持ち、励まし合いながら帰ってきたそうだ。
「ありがとう。本当にありがとう」
私は二人の肩を抱いて家に入った。そして、もらったばかりの水を鍋に入れ、ガスコンロに火を点けた。懐中電灯を頼りに卵やネギ、きのこやワカメなどの食材をふんだんに使い、具だくさんスープを作ったのだ。
「うわぁ、あったかくておいしい」
身も心も洗われ、芯から温まりほぐれていく。これで幾分かでも寒さが凌げそう。やっと子どもたちにいつもの笑顔が戻った。
思えば、私たちは常に明るく快適な環境の中で生きている。蛇口からはいつだって清潔な水が注げる。苦労せず食べられるモノが手に入り、時にはもったいないこともする。
命の危機にさらされず、当たり前のように食事ができる生活。各々が毛布に包まり固まりながら、「感謝と幸せ」を噛みしめ眠りに就いた。星が本当にきれいな夜だった。
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三國 清三さん(国連WFP協会顧問 オテル・ドゥ・ミクニ オーナーシェフ)
東日本大震災の時に、僕もボランティアで小学校に出向き食事を提供したことを思い出した。そして子どもたちから笑顔が消え、先生方も疲れ切っている姿を思い出した。その経験から、この16歳の長女と、12歳の次女の姿も想像することができた。水を待つ母親、給水所を必死で探す子どもの姿に感動した。最後のお母さんの言葉「星が本当にきれいな夜だった」のひとことに、安堵の気持ちと、ほっとした気持ちが深く込められていた。そして「お母さん、私、頑張ったよ・・・・・・」の言葉に涙がでた。