WFPチャリティー エッセイコンテスト2020

入賞作品発表

中学生・高校生部門賞

こころのお弁当
富山県 富山国際大学付属高等学校 3年
 菊原 彩音(きくはら あやね)さん

 また怒られてしまった。もう辞めてしまいたい。高校二年生の夏、部活動の練習試合の日。先生や仲間との関係がうまくいかない。自分の力が上達しない。そんなことを思っているとむしろ下手になっている気がして、部活がさらに嫌いになっていく。そんなサイクルに嵌っていた私は、試合で大きなミスを連発し、先生に凄まじい剣幕で叱られた。限界だった。こんな部活、やめてやる。
 昼食の時間になって、みんなで円になって座った。皆黙々とお弁当を食べている。きっとさっきのこと怒ってるんだ。私は嫌われてしまったんだ。涙で視界がぼやけ、おいしかったはずのお弁当の味が消えていく。
 その時だ。「きく。」誰かが私のあだ名を呼んだ。顔を上げると、突然私の口に甘い卵焼きが飛び込んできた。いや、突っ込まれた。反射的に咀嚼し、飲み込む。美味しい。涙を拭って顔を見ると、「おいしい?元気になった?」笑っていた。見回すと、みんな私を見ている。ニコニコしている。「きく、これも食べな。」「きくさん、これあげるから元気だして。」皆自分のお弁当から、一つずつおかずをくれた。ウインナー、オムレツ、コロッケに焼きそば、スナックパン。おまけに蒟蒻ゼリー。泣きながら食べた。自分のお弁当も食べきれないほどに食欲がなかったはずなのに、おいしくておいしくて、涙が止まらなかった。
 「きく、さっきの気にせんでいいんだよ。」誰かが言った。「午後も頑張ろうね。」また誰かが言った。私は口いっぱいに広がる幸せを噛み締めながら、首をブンブンと縦に振り、みんなはそれを見て笑った。ちょっとしょっぱくて、世界で一番美味しいごはんだった。
 高校三年生の夏、私は笑顔で引退した。

  • 【選者のコメント】
    三浦 豪太さん(国連WFP協会顧問 プロスキーヤー・博士(医学))
     今回の「私の元気ご飯」、部活で失敗が続き落ち込んでいる時にそれを励まそうと作者の口に次次とチームメイトからお弁当におかずを口に入れられた作者。その描写がまるで映画のワンシーンのようにユーモラスながら暖かい気持ちが文章から伝わりました。著者の青春の一ページを飾る部活の中でこれこそが彼女を支えた元気ご飯だということがわかります。
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