WFPチャリティー エッセイコンテスト2023

入賞作品発表

審査員特別賞(中学生・高校生部門)

兄と愛のお弁当
愛知県 愛知県立杏和高等学校 1年
木全 紅葉さん

 「マックでいいよ。」
終わりの見えない反抗期の真っ最中である兄のいつもの台詞。またか、と呆れる母。私はこの見慣れた光景に、嫌気が差していた。
特に酷かったのが、母の料理を見て、
「気分じゃない。」
と、カップラーメンを食べ始めた事だった。
 それでも母はめげなかった。
 兄は高校二年生。母は毎朝私と兄の二人分のお弁当を作ってくれる。母はこれでもかと言う程、美味しい上に栄養のある手料理を小さな箱に詰め込む。何故なら、兄が唯一母の料理を食べてくれる瞬間だから。
 兄はそのお弁当に対して、油っこいだの、味が薄いだの、無駄に肥えた舌で文句を言うが、一度も残して帰って来たことはない。
 母は分かっていたのだ。
 それから次第に文句の数が減り、何も言わない日が増えた。私は不思議だった。あのご飯の妖精が何も言わないなんて、天変地異でも起こるのではないかと思う程だった。
 でも私は知っている。母は超の付く努力家だって事を。
夜から試行錯誤を重ね、朝は眠たい目を擦って最後の調整をする。今まで言われた文句を二度と言われない様に、美味しく栄養を摂ってくれる様に。そんな願いが込められていた事を兄は知っているのだろうか。
 いつか、兄の反抗期が治まったら、兄の「美味しい」が聞いてみたいと密かに思っている。母はどうなのだろう。私よりも思っているのだろうか。でも、確かに分かっている事は、兄と私への愛情は、小さな箱には入りきらない程詰まっている事だ。

  • 写真
  • 【選者のコメント】
    広瀬 アリスさん(女優)
     私は東京で暮らす様になり、親のありがたさ、大変さを実感しました。紅葉さんが今、それに気づけているのは素晴らしいことです。大人になってから気づく、親の気遣いや努力もあったりすると思います。そのひとつがお弁当だったと、これを読んだ今、思います。紅葉さんとお兄さんが大人になったとき、再びこの作品を読んで、改めて、お母さんのお弁当に込められていた愛情を感じてもらえたらと思います。そして私も久しぶりに、母の作った愛情たっぷりのお弁当が食べたくなりました。
PAGE TOP