WFPチャリティー エッセイコンテスト2021

入賞作品発表

審査員特別賞(中学生・高校生部門)

笑顔の向こう側に
静岡県 浜松聖星高等学校 1年
 松下 チャミリさん

 父が満面の笑みで差し出すカレー。スパイスを調合して作る、我が家秘蔵のレシピのカレーは私の大好物だ。美味しくできたよ、と言う父の笑顔が見える。
 父の母国、バングラデシュ。父の実家のある田舎では、日本のような台所がない家が多い。庭にある小屋のような場所が台所だ。土に穴を開けるように作られたかまどに、薪をくべて火をおこす。私たちが日本から遊びに来ると、祖母はいろいろな料理を作ってもてなしてくれる。小柄な祖母は井戸から水を汲み、畑で育てたスパイスや野菜を刻み、変わった形の包丁で上手に魚をさばき、重そうな鍋でたくさん料理を作ってくれる。朝には飼っている牛の乳を絞り、温めてホットミルクやチャイを用意してくれる。米を臼でひいて甘いおやつも作ってくれる。便利な道具はなくても、祖母は何でも器用にできるのだ。しばらく過ごしていると、スイッチ1つで火がつき、簡単に食べ物が温まるような日本の生活の方が夢みたいだな、と思うようになる。
 鶏や魚を家でさばくのはやっぱりびっくりするし、まだ慣れない。辛さも日本とは比較にならないし、いつも私たちの好みの味がでるわけでもない。正直、衛生面ではちょっと不安、と思うときもある。でも私たちが美味しそうに食べていると、祖母はとても嬉しそうに笑う。その笑顔は父とそっくりで、たぶん私とも似ている。美味しいと思う気持ちのそばには、優しい笑顔がある。
 私は父の国の言葉は単語しかわからないし、祖母は英語も日本語もわからない。でもいつも「おなかすいてない?「これは美味しいよ」と語りかけてくれる。何を言っているのか分かるのだ。祖母の思いやりが、私は嬉しい。
 母国であっても、今は日本から海外へ行くことは簡単ではない。海外に行ける日がきたら、必ず祖母のところに行って、今度は私が祖母に笑顔になる食事を作ってみよう。

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  • 【選者のコメント】
    女優 広瀬 アリスさん
     人との繋がりを感じづらいと言われているコロナ禍でも、松下さんとバングラデシュのおばあちゃんは、お父さんのカレーを通じて深く繋がっていますね。美味しいものを沢山作ってくれたおばあちゃんを想う姿に心が温まりました。言葉ではなく、誰かを笑顔にする為のゴハンは、何よりもチカラになるはずです。家族揃って食事ができるという、当たり前の事に感謝しようと改めて思えた作品でした。
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