「今しかない高一の夏の青春を返してよ。私の気持ちなんて、歳をとったお母さんには絶対分からないでしょ?。」
私は、どうしても友達と海に行きたくて、母と口論になった。母は、
「コロナが流行っているから、絶対ダメ。お父さんの仕事に迷惑はかけられない。」と言い返してきた。連日のようにSNSでは、海やテーマパーク、キャンプなど、同級生が夏を満喫している楽しそうな映像が流れてきた。
私の家庭は、父が医療従事者ということもあり、コロナに関して最初から、ものすごくシビアであった。クリニックでは、発熱外来やPCR検査も行っており、父は当初から自分もかかるかもしれないという危険と隣り合わせで働いていた。父はワクチン接種の順番が回ってくる今年五月まで、ずっと職場に泊まりっぱなしであった。それは、自分の仕事が原因で、家族にうつしてはならないという父の配慮であった。私にも、その父の思いやりは伝わっていた。
昨年だったか、父が一瞬だけ必要な物を取りに家に帰って来た時のことを思い出した。「オムライスだけど晩ごはん食べていく?。」と、母が聞いたが、父は部屋に入って来なかった。私は、一言、父に
「気を付けて行って来てね。」と声をかけた。玄関の扉が閉まった途端、急に寂しくなり、涙がポロポロ流れ落ちた。オムライスには、母が私を元気付けるためか、ニコニコマークがケチャップで描かれていた。父も寂しいけど頑張っているのだ。私は自分に言い聞かせ、食べながら、無理矢理、笑顔をつくってみた。
このいつまでも先の見えないコロナ禍。
「この夏の青春を返してよ。」
と、母に言ったその夜、母は私の大好きなオムライスを作ってくれた。そこには、ケチャップで「ごめんね」と書いてあった。私は、涙をこらえた。そして、オムライスを食べながら、「青春の我慢」を心の中で強く誓った。
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三浦 豪太さん(国連WFP協会顧問 プロスキーヤー・博士(医学))
コロナ禍の中、作者のお父さんのような医療従事者には本当に頭がさがる思いです。そしてそれを耐えているご家族もいるのだなと思うと胸が苦しくなります。高校一年生の夏は戻ってこないかもしれませんが、家族との思いが深まったことを感じさせてくれた作品でした。