WFPチャリティー エッセイコンテスト2022

入賞作品発表

18歳以上部門賞

世界に一つの愛情弁当
東京都
後藤 里奈さん

 どんなに高価な食材を使ったものより「豪華」なお弁当を見たことがある。
 当時、私は中学一年生の担任をしていた。お昼休み、教室で生徒達と一緒に教室で昼食をとることは、私の日課だった。ある日、いつものようにクラスの様子を見に行くとなんだか騒然としている。どうやら、ある男子生徒が自分のお弁当箱を誤って落としてしまったようだ。無残にも床に散らばるおかずをじっと見つめ、しょんぼりしている…。その生徒は発達障がいがあり、人とコミュニケーションをとるのが苦手で、何かにつけ不器用な生徒だった。まるで大事なおもちゃを取り上げられた子供のように落ち込む彼に、かける言葉も見つからない…。私もどうしたものかと困っていると、「これ、食べる?」と、隣の席の女の子が自分のおかずを彼に差し出した。すると、他の生徒達も「俺のもあげる!」、「これ好き?」と、次々と自分のおかずを彼に分けてくれた。気づけば、机の上に残っていたお弁当の蓋には、唐揚げ、卵焼き、ポテトサラダ、ミートボールなど、たくさんのおかずがてんこ盛りになっていた。皆の思いやりが詰まった「超豪華弁当」の完成である。はじめは戸惑っていた彼も、クラスメイト達の優しさに触れ、徐々に笑顔になっていった。「ありがとう。」と言いながら、口いっぱいにおかずを頬張る彼に、「いいなあ。」「おいしい?」と声をかける子供たち。いつにも増して和やかな昼食時間となった。人に分け与えることの喜びを、子供たちは教えられなくとも知っていたのだろう。
 微笑ましく思っていると、「先生はあげないの?」とある生徒。こういう時に限って、食べかけの菓子パンしか持っていなかった私。その日以来、どんなに忙しくても手作り弁当を持参するように心がけている。自分のためではなく、誰かのためになる時が来ると信じてー。

  • 【選者のコメント】
    三浦 豪太さん(国連WFP協会顧問 プロスキーヤー・博士(医学))
      お弁当をひっくり返してしまった生徒にみんなからのお裾分け。がっかりした出来事がみんなの思いやりが詰まった弁当に代わる時、救われたのはお腹だけではなくみんなの気持ちだったのでしょうね。先生が最後に「これから菓子パンではなくちゃんと手作り弁当を持っていこう」というオチも良かったです。
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