WFPチャリティー エッセイコンテスト2022

入賞作品発表

中学生・高校生部門賞

幸せのスパイス
山口県 学校法人 鎮西敬愛学園 敬愛中学校 1年
安田 悠真さん

 「おいしい」って何だろう?  食べ物の味?彩りの良い見た目?お椀から立ち上る、温かな湯気?きっとどれも正解だろう。味も見た目も温かさも、僕の心を満たしてくれる最高の要素だ。でも僕は、食事のおいしさを左右する、もう一つの特別なスパイスを持っている。それは家族の笑顔だ。
 母が入院して1ヶ月が経った。母は遠い地で病気と闘っている。そこで、僕たちは毎日、ウェブカメラでお互いを映し、話をしながら夕食を取ることにしている。これが我が家の、家族団らんのひと時なのだ。
 ある日、父が母の病院のメニューに合わせて、同じ食事を用意してくれた。この日のメニューはちらし寿司。父は、
「お母さんの配膳と比べると、こちらは彩りが悪いなあ。」
と言って照れていたけれど、僕は父に感謝の気持ちでいっぱいだった。母も、
「離れていても、一緒って嬉しいね。」
と笑ってくれた。食後のデザートはぶどう。母は、ぶどうを房から一粒取って、画面に近づけた。妹が画面越しに大きな口を開けて待っていたので、僕はすかさず、こちら側のぶどうを口に入れてあげた。妹が、
「お母さんと分け合いっこできた!」
と言って飛び上がって喜んだので、母も僕も父も、みんな笑顔になった。離れていても、おいしい食事と楽しい時間を分け合える。僕は食べ物の「おいしさ」を改めて実感した。
 大好きな人の笑顔は、食事を美味しくする一番のスパイスだ。それは、どこにいたって感じることができる。たとえ同じ空間にいなくても。画面越しでも。会えなくたって、心の中に相手の顔を思い浮かべれば、共においしい食事を味わうことができる。この温かさが、僕たち家族を支えている。僕は今日も、母と一緒に夕食を食べる。画面の向こうに、とびきりおいしい幸せのスパイスを感じながら。

  • 【選者のコメント】
    本田 亮さん(国連WFP協会理事 プクリエイティブディレクター・環境マンガ家)
     遠く離れた病院に入院しているお母さん。そんなお母さんと一緒に食卓を囲むためにウェブカメラを使うというアイデアがいかにも現代的で素敵でした。そして、お母さんからブドウを画面越しにもらってそれを本当に食べたかのように勘違いした妹。その光景が目に浮んできて微笑ましかった。テクノロジーの新しい使い方、そして新しい形の家族団欒の提案があった作文だと思います。
PAGE TOP