小学五年生のある日、私は母と喧嘩して夜ごはん前に自分の部屋にこもった。当然、母から夜ごはんの声はかからず、自分から出ていくのも嫌なので、ずっと部屋の中にいた。そして、家族が全員寝静まった頃にお風呂に入るために部屋を出た時、私のテーブルにアルミホイルで包まれたおにぎりが二個置いてあるのを見つけたのだ。しかし、私は自分のプライドを優先させて、食べてしまったら負けだと思い食べなかった。
おにぎり二個は朝になっても置いてあったが、食べる訳にはいかないと思い、近くのコンビニでパンを買って食べ、一番早く家を出た。その夜もおにぎりは置いてあり、私は、こうなったら腐るまで食べないで母を困らせてやろうと思ったのを覚えている。
その状態が三日間も続いたが、おにぎりも二個変わらずに置いたままだった。私は三日も夜ごはんを抜いたため、とうとう限界になってしまい、お腹を壊すのを覚悟して腐っているだろうおにぎりを手にとったのである。
しかし、アルミホイルを外すと信じられないものが包まれていた。そこには、私の好きな「いか昆布おにぎり」がまだ出来たてのように温かいまま入っていたのだ。この時、私は全てを察した。母は毎晩このおにぎりをつくり、私が食べなかったおにぎりは昼に母自身が食べているのだということを。そして私は、初めから母に負けていたことに気づき、腐ればいいなどと母の作ったごはんを軽視して侮辱してしまった自分勝手な考えを悔いた。
その時に食べたおにぎりは、今までで一番心から満腹感を味わえたものだったのを覚えている。この思い出は、母の思いやりを一番に感じられたものである。そして、この「いか昆布おにぎり」は、私の心を穏やかにさせてくれるものとなり、私が何かに行き詰まったりすると食べる、私のとっておきごはんとなったのだ。
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本田 亮さん(国連WFP協会理事 クリエイティブディレクター・環境マンガ家)
母との喧嘩、その時の心の変化を本当にリアルに細かく表現している。堪えきれずにおにぎりを食べてしまった時に初めて気付く母の愛の大きさがじーんと沁みました。
おにぎりというシンプルなモノが特別な食べ物となる瞬間がよくわかります。とてもいい話を見事にまとめてくれたと思います。