WFPチャリティー エッセイコンテスト2017 入賞作品

中学生・高校生部門賞 愛を注ぐ
東京都 開成中学校 3年 谷澤 文礼(たにざわ ふみのり)さん
 僕は祖母の料理が苦手だ。今年の夏、祖母の家に、親族がお墓参りの為に集まった。祖母は優しくて、面倒見がいい。そんな祖母に、失礼なことは分かっているが、僕の口には合わなかった。関西だから味付けが違うのかな、と思いながらも、ご飯に口が進まなかった。
 僕はもうすぐ高校生になる。そのことを知った祖母は、食事の手を止めた。そして命の物語を語ってくれた。
 僕の祖母は、戦争を体験していた。毎日毎日、飢えに苦しみながら、焼夷弾と艦載機から逃げ続けた。突然、家が無くなり、隣に立っていた人が死ぬ。どれほど、恐ろしかっただろう。七歳で親を亡くし、姉妹三人だけで逃げまとった。幸せな生活を、大切な人を奪われた祖母。手を震わせ、それでも焼夷弾の絵を描き、大きな声を絞り出して語る祖母からは、やりきれない憤りや切り裂かれるような絶望が滲み出ていた。けれど、祖母は「怒っていない。」と言った。「どうしようもなく悲しかった。それは今も変わらない。でも、子供が立派に育ち、誇れる孫が出来た。怒りや悲しみじゃなくて、愛を持つことが大事。」そう語る祖母は笑顔だった。
 祖母が悲しみを押し殺し、僕の為に愛を注いで作ってくれた料理を軽々しくけなした僕を殴りたかった。誇りだと言ってくれた祖母にこんなこと言えなかったけれど、心の中で精一杯謝った。
 冷えてしまった味噌汁は、溢れた涙のせいか、少ししょっぱかった。でも、飲む義務があると思った。祖母の為だけではない、平和な社会を創ってくれた先人たちの為にも、最後の一滴まで飲み干すべきだと思った。親を亡くし、試行錯誤して作ってくれた祖母の料理は、僕の心を愛と生きる力で満たしてくれた。
 どんな料理にも、生き物の、作ってくれた人の愛が注がれている。この夏、何か清々しい、大切なものを心に持てた気がする。