WFPエッセイコンテスト2015 入賞作品

審査員特別賞(小学生部門) 食事は奇跡
神奈川県 カリタス小学校 6年 田中 菜々美(たなか ななみ )さん
 これは、私の祖父の願いを叶えるためにした私達家族の一つのお話だ。
 私が幼稚園生だった時、私の大好きな祖父はある日突然、前ぶれもなく倒れた。話すこと、食べること、歩くこと、祖父はほとんどの自由を失った。優しい優しい祖父の姿は変わり果て、毎日死と向き合う祖父を前にとにかく恐かったという記憶しかない。なんとか一命をとり留めたが、祖父はこの先も口から食事をとることは難しいと宣言された。家族の手助けの中、祖父は胃につないだチューブで食事がとれるまでになった。食べる楽しさを失った祖父に雰囲気だけでもという想いから、食事は家族揃っておしゃべりしながらするように心掛けた。「いただきます」と同時に管のレバーを下げ、胃に直接栄養を流し込むのをいつも見ていた。
 ある日、久しぶりの家族旅行での夕食…奇跡が起きた。「少しだけ、味だけでも」母はハンバーグを細かく砕き、祖父の口へ持っていった。驚いた顔の祖父は一瞬とまどいながらも口を開けた。飲み込めた。祖父の目から涙がこぼれた。「死ぬ前にもう一度口から食べるのが夢だ」と語っていた祖父の願いが叶った瞬間だった。笑顔があふれた。それを見た家族は、皆泣いた。二年ぶりの食事だった。「たとえ祖父に何かあっても、決して後悔しない」と家族が確認していたと、この作文を書くことで知った。そこから祖父は、医者も驚く程の回復を見せた。祖父の胃ろうは不用になった。「死ぬまで食べたい。もう一度…」この気持ちはなんだろう。生きたいと食べたいはイコールではないかと思った。そして、生きてほしいという家族の勇気が奇跡をおこした。私はあの時の味を一生忘れない。ハンバーグを食べる度思い出す。祖父は命をかけて、食事のありがたさを私に教えてくれた。食べることは奇跡を生みだすということも。