WFPチャリティー エッセイコンテスト2017 入賞作品

18歳以上部門賞 命をつなぐ食事
栃木県 松本 歩実(まつもと あゆみ)さん
 私が管理栄養士として老健施設に勤めて三年目。日々厨房業務と献立作成に追われ、自信と希望に溢れていた入職当時の笑顔が私から減っていた。ある日一人の利用者様が死亡退所された。私の顔を見る度に口癖のように「今日もおいしかった。」と声をかけてくれる方だった。焼きそばが大好物だったのを覚えている。後日、ご家族の方から「おじいちゃんは毎日美味しいご飯が食べれて幸せだったよ、ありがとね。」と言われた。私は、凄く嬉しい気持ちと下を向いて仕事をする自分にやるせない思いが込み上げて一人倉庫で泣いた。
 翌日から時間を見つけては利用者様の顔を見に行くようにした。そうすることで利用者様にとってどんな食事が適しているのかを把握し、食事作りに活かそうと考えたのだ。管理栄養士として完璧さだけを求め、決め事や数値ばかりを気にするのではなく利用者様の声に耳を傾け、現場の声を聞く必要があると思う。
 老健施設は、疾病治療を目的とし、在宅復帰を目標としているが、やむを得ず施設で最後を迎える方が少なくない。私は、管理栄養士として疾病の治療はもちろん大切だと思うが時には好きなように過ごし、好きなものをお腹いっぱい食べさせてあげたいと思う。人生の最後に美味しいご飯を食べさせてあげたい。
 私は、利用者様が一瞬でも私の作る食事を食べて「おいしい」と微笑んでくれるようにこれからも日々利用者やそのご家族、食事作りに携わる人達への感謝を忘れず、頑張っていきたいと思う。そして命と向き合う職に就けたことを誇りに思っている。最後に、もう一度焼きそばを食べさせてあげたかったな。